γリノレン酸を化粧品に配合した時の効果

ボリジ油(borage oil:別名ボラージオイル)、ブラックカラント油(Black currant oil)、月見草油(Evening primrose oil)、大麻油(Hemp oil)には、必須脂肪酸の1つであるγリノレン酸が含まれている。γリノレン酸は、皮膚障害を治療し、健康な皮膚を維持するために最も有効な素材の一つであることが証明された。ボリジ油の脂肪酸組成は、ユニークで20-24%のγリノレン酸を含んでいてこれらの植物油の中で最も多く含まれている。このような大量のγリノレン酸を含んでいる植物油は他に無い。γリノレン酸含有量は、大麻油で3%、月見草油で8-10%、ブラックカラント油で15-17%でボリジ油より少ない。化粧品原料としてのγリノレン酸含有植物油の認知度は、乾燥肌、湿疹、炎症、外傷などの皮膚障害の治療に効果があると言う研究結果が発表されるに従い急速に広がっている。


γリノレン酸の皮膚に対する役割

健康な皮膚を保つには、皮膚細胞中に十分な量の脂質が必要である。特に必須脂肪酸と呼ばれる多価の不飽和脂肪酸は、皮膚の水分量、柔軟さ、滑らかさそして皮膚の障害を予防する上で特に必要である(1)。健康な皮膚を維持し皮膚の障害を緩和する為に最も重要な多価の不飽和脂肪酸は、オメガ6油と呼ばれている必須脂肪酸で、リノール酸とγリノレン酸がある。これらの必須脂肪酸の摂取不足は、表皮の異常代謝によるうろこ状の皮膚剥離、皮膚毛細血管の脆弱化による内出血の増加、外傷治癒率の低下、皮膚からの水分損失率(経皮水分損失率)の増加によって起こる乾燥肌などを引き起こす。乾燥肌は、最も良く現れる症状で、特に年輩の方では、普通の症状になっている。例えば、80才の人では、表皮の厚さが平均より50%薄くなっていて、表皮の薄さが、水分の損失を加速させている。乾燥肌の状態が悪化すると乾燥性湿疹や乾癬症に進行する。

多くの皮膚障害は、必須脂肪酸の代謝障害によると考えられている。特に、リノール酸をγリノレン酸に変換する酵素、デルタ-6-デサツラーゼ(delta-6-desaturase:D6D)の作用が阻害される為と考えられている。この酵素が働かなくなると体内で生合成されるγリノレン酸の量が不足するようになる。この酵素の活性が低下する原因は、老化、動物性脂肪の取りすぎ、糖尿病などがある。

細胞の流動性と安定性を保っている細胞膜の構成成分であるリノール酸とγリノレン酸は、健康な皮膚を保つ上で重要な物質である。体内の水分を保持し、異物の侵入を防ぎ、毒物を体外に排泄するなど体を守る保護組織(バリアー)として皮膚細胞が適切に機能するためには、健全な細胞膜を持っている必要がある。皮膚に十分な水分が保たれていることは、健全な細胞膜に囲まれた細胞内に十分な水分が保持されていることであり、その結果、バリアーが正常に働き、有害物質の刺激から皮膚を守ることが出来る。それ故必須脂肪酸は、表皮の細胞層を正常に保つ上で必要不可欠な物である。

又、γリノレン酸は、血行を良くし、炎症を鎮め、水分の損失を防ぐことで正常な皮膚の生理作用を維持することを助けるプロスタグランジンE1のような強力ではあるが短命なホルモン様物質であるエイコサノイド(eicosanoids)の前駆物質でもある。


健康な皮膚と障害のある皮膚でのγリノレン酸の役割


アトピー性皮膚炎、湿疹、乾燥肌、乾癬症、経皮からの水分損失量の増加、表皮の保護膜作用低下などの障害は、γリノレン酸の不足と関係している(2,3)。十分な量のγリノレン酸を確保しそして十分な量のプロスタグランジンE1を生じさせるには、γリノレン酸をなんらの形で摂取する必要である。γリノレン酸は、経口摂取でも皮膚に塗布しても体内に摂取することが出来る。その結果、皮膚炎、湿疹、乾癬そしてニキビ、紫外線による発赤や紅斑、外傷など多くの皮膚障害を減らすことが出来る。


化粧品でのγリノレン酸含有油の利用


ボリジ油を塗布することで皮膚炎や湿疹などの皮膚障害と炎症の治療や予防に非常に効果があることが、動物と人の実験で確認された(3,4)。Diezel等は、あらかじめマウスの皮膚にボリジ油を塗布しておくと、通常実験的に炎症を起こす方法では、人工的に炎症を起こすことが出来ないことを発見した(5)。ボリジ油は、月見草油やオリーブ油のような他の植物油よりその効果が高いことが判った。Eliasは、必須脂肪酸の不足状態で飼育したヌードマウスに1.5%のボリジ油を含むジェルを塗布することで経皮水分損失率を大幅に減少させることが出来ると報告した(6)。その効果は持続的で当初の経皮水分損失率の減少率は、27.3%であったが、4日 間連続して塗布すると67.8%まで増加した。Nissen等は、ボリジ油が、障害のある皮膚の細胞内水分を回復させ、健康な皮膚の健全性を維持する重要な役割を持っていることを証明した(7)。彼らは、サフラワー油、ボリジ油とプラセボを含むスキンクリームを一般的な乾燥肌の人と界面活性剤により荒れて表皮の剥離がある皮膚の人に塗布してその効果の違いを観察した。試験に参加した皮膚障害のある20名の被試験者でボリジ油を含むクリームは、他のクリームに比べて皮膚の水分の回復率や皮膚の滑らかさの回復率で優れた効果を発揮した。この試験結果から、ボリジ油には、経皮水分損失率を減少させ、塗布した皮膚の水分量を増強する効果があることが判明した。

ボリジ油は、「くさ」と呼ばれている乳児に一般的に見られる頭部の脂漏湿疹の治療に有効であった。the British Journal of Dermatologyに発表された研究によると、48名の乳児の頭部脂漏性湿疹に1日2回のボリジ油の塗布を行った。頭部の皮膚障害は、10-12日間の塗布で完治した(8)。治療を終了した後1週間以内に症状が再発することはなかった。更に乳児が生後6-7ヶ月になるまで再発しなかった。この研究で、ボリジ油が効果的に経皮吸収され、プロスタグランジンE1を生合成する為の原料としてγリノレン酸が体内に供給されていることを証明した。乳児期には、デルタ-6-デサツラーゼの機能が未成熟なことが、乳児に脂漏生湿疹が多発する原因であると考えられる。その為γリノレン酸を補給できるボリジ油を塗布することが最も適切な治療法であると考えられる。

別の研究でもγリノレン酸の塗布により乾燥肌の患者の経皮水分損失率を減少させ皮膚を正常化し、皮膚炎や湿疹などの皮膚障害を緩和することを確認している(9-11)。γリノレン酸のそのほかの効果として外傷ややけど、打撲の治療に有効であると言う報告がある(12,13)。又、γリノレン酸の先駆物質であるリノール酸塗布した場合、頭皮の湿疹や脱毛、髪の色素脱失に効果があるとの報告もある(14)。

γリノレン酸を経口摂取して皮膚細胞中γリノレン酸量を増加させて起こる効果と皮膚に塗布して起こる効果は同じである。このことは、γリノレン酸を経口摂取しても塗布しても体内に入ったγリノレン酸は同じメカニズムで作用していると考えられる。γリノレン酸の経口摂取でも湿疹、皮膚炎、ニキビの症状を減少させ、乾燥肌や荒れ肌を改善し、皮膚の滑らかさや柔らかさを増し、紫外線による発赤や紅斑を治すことが判っている(1,12)。 紫外線による皮膚障害の代表的な例は、日焼けである。日焼けにより発赤、腫れ、水膨れ、痛みなどが発生するが、その時、皮膚の細胞壁に含まれる脂肪酸が流出する。流出した脂肪酸の内アラキドン酸は、日焼けの症状を悪化させる方向に働き、γリノレン酸は、改善させる方向に働く。これは、γリノレン酸からプロスタグランジンE1が作られる為である。それ故、日焼け止め化粧品のγリノレン酸含有植物油を使用することで日焼け止め化粧品の効果を高めることが出来る(16)。 更に皮膚細胞中にγリノレン酸の様な脂肪酸を増加させることで、老化や日光による害、皮膚にストレスを与えたり、皮膚細胞中のγリノレン酸の量を低下させる要因から皮膚を守ることが出来ると考えられる。抗炎症剤は、紫外線AやBによる皮膚のダメージを防ぐ効果があるが、γリノレン酸もそれと同様の効果を持っている。十分な量のγリノレン酸が皮膚にあることは、皮膚の機能を正常にし、健康な皮膚を保つだけでなく、いろんな皮膚障害を防ぎ治すことが出来る。

γリノレン酸を経口摂取して補う必要があるのは、高齢者やアトピー性皮膚炎の人の様に病的な状態にある人である。健康な人が、γリノレン酸を経口摂取しても何ら効果を示さないと言う報告もある。それは、健康な人は、リノール酸からγリノレン酸を体内で作ることが出来るからである。だから、若い人向けの化粧品には、γリノレン酸の不足を補うと言う意味で、γリノレン酸の含量の少ない大麻油や月見草油を使い、高齢者や肌が弱っている人向けの化粧品には、γリノレン酸が多く含まれているブラックカラント油やボリジ油を使いのが良いと考えられる。

参考文献
1. Ziboh V9 Miller C. Essential fatty acids and polyunsaturated fatty acids: Significance in cutaneous biology. Annu Rev Nutr 1990;10:433
2. Melnick B, Plewig G. Atopic dermatitis and disturbances in essential fatty acid and prostaglandin E metabolism. J Amer Acad Dermato1 1991;25:859
3. Campbell KL. Fatty acid supplementation and skin disease. Adv Clin Derm 1990;20(6):1475-1486.
4. Frithz A, Tollesson A. Essential fatty acids in preparations for treatment of eczema. Sweden Patent No. 460762. Nov. 20, 1994
5. Diezel WE, Schulz E9 Shanks M, Heise H. Plant oils: Topical application and anti-innammatory effects (croton oil test). Dermatol Monatsschr 1993;179: 173
6. Elias P, as quoted in Goldberg RL. The Compounder's Comer: Exotic claims. Durg and Cosmetic lnd 1993;Jan:40
7. Nissen HP, Blitz H, Muggli R. The effect of gamma linolenic acid on skin smoothness9 humidity and TEWL - A clinical study. Inform. 1995;6 (4):519.
8. Tollesson A, Frithz A. Borage oil: An effective new treatment for infantile seborrhoiec dermatitis. Br J Dermatol 1993;129:95
9. Tollesson A, Frithz A. Transepidemral water loss and water content in the stratum corneum in infantile seborrhoeic dermatitis. Acta Derm Venereol 1993;73 : 1 8.
10. Abecassis J, Baume B, Boiron C, Curtay J. Nutritional supplement for skin improvement containing vitamin, carotene and borage oil. French Patent No. 2704390. Nov 4, 1994
11. Dizel WE. Agent for the treatment of atopic eczema and other innammatory skin diseases. European Patent Appl No. 598365. May 25, 1994.
12. Gunji H, Ono I, Tateshita T, Kaneko F. Clinical effectiveness of an ointment containing prostaglandin El for the treatment of burn wounds. Bums 1996;22(5):399-405.
13. Delcair V. The usefu11ness oftopical application of essential fatty acids (EFA) to prevent pressure ulcers. Ostomy Wound Manage 1997;43(5):48-52, 54.
14. Skolnik P, Eaglstein WH, Ziboh VA. Human essential fatty acid deficiency. Treatment by topical application of linoleic acid. Arch Dermatol 1977;1 13:9391941.
15. Hansen TM, Lerche A, Kassis V, Lorenzen I, Sondergaard J. Treatment of rheumatoid arthritis with prostaglandin El precursors cis-linoleic acid and gamma-linolenic acid. Scand J Rheum 1983;12(2):85-88.
16. HolleranW.M.,UchidaY.,Halkier-SorensenL.,HaratakeA., Hara M., EpsteiJ.H., Elias P.M., Structural and biochemical basis for the UVB-induced alteration in epidermal barrier function. Photodermatology, Photoimminology and Photomedicine 1997 Aug; 13(4): 117-28


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