必須脂肪酸と体


必須脂肪酸の摂取不足の原因


ほとんどの人々が脂肪恐怖症に陥っていて、多くの低脂肪商品や低カロリー商品が、喜んで受け入れられている現在において、逆に人の生命維持に必要な必須脂肪酸を必要量取ることが、困難になっている。

それは、食品中に使われている脂肪も植物油から水素添加により得られたマーガリンのような人工的に作られた脂肪に代えられており、食用油も酸化が受けにくく変質しにくい安定した油(オメガ9油)に変換されて売られている為である。

バターの代わりにマーガリンが使われているのは、植物油に水素を添加して作るマーガリンは、その固さを自由に変えることが出来、加工し易いためであり、2重結合の少ないオメガ9油に水素添加で変換することは、熱に安定な食用油を作るためであり。その結果、食品加工に適さない、酸化を受けやすい多価の必須脂肪酸を食品から摂取することが非常に困難になっている。

必須脂肪酸不足の認識


しかし、ほとんどの人は、ビタミンやミネラルの不足に注意しても必須脂肪酸の不足には関心を払わない。又、ほとんどの医師も、必須脂肪酸が不足に対して注意も関心も払わないし、脂肪酸不足による病状についての知識もないし、検査をする事もない。更に必須脂肪酸不足により起こる症状は、他の栄養物不足により起こる症状ほどはっきりしていないので、その病気が必須脂肪酸の不足により起こっているとは感じないし、例え、必須脂肪酸の不足が判ったとしても医師は、それを治す方法を知らない。

統計によれば、現代人の多くの人々が、必須脂肪酸不足になっていて、その中で何らかの病状を持っている人は、必須脂肪酸の不足により発病している可能性がある。必須脂肪酸の不足からくる症状は、非常に広範囲で軽傷から重傷まで幅が広い。例えば、疲れやすい、肌や粘膜が乾燥する、消化が悪い、便秘がちである、かぜを挽きやすい、気分がふさぐ、関節炎がある、心臓病に罹っている、高血圧であるなど症状が多岐に渡る。又、これらの症状は、必須脂肪酸が不足していなかっても起こるので、自分が必須脂肪酸不足になっているか判断が難しい。結局、必須脂肪酸不足を解消するには、自分で意識的に必須脂肪酸を取るしか方法が無い。

プロスタグランジンについて


なぜ必須脂肪酸を取ることが重要であるかと言うと、それは、必要量のプロスタグランジンを体内で作り出すためと細胞壁を健全に保つ為に必要であるからである。
プロスタグランジンとは、2重結合を3-5個持つ炭素原子20個からなる必須脂肪酸から作られるホルモンの様な働きをする物質である。プロスタグランジンは、体内でリノール酸とリノレン酸から複数の水素原子を取り除き、炭素の2重結合を増やすことで作られる。プロスタグランジンは、炎症、痛み、腫れの調整、血圧、心機能、胃腸機能と消化酵素の分泌調整、腎機能と流動調節、血液凝固と血小板凝集、アレルギー反応、神経伝達、各種ホルモンの産生に関係している。

炭素原子の2重結合の数によりプロスタグランジンは、E1、E2、E3の3種類に分類される。E1とE2のプロスタグランジンは、リノール酸(オメガ6油)から作られる。リノール酸は、3つの2重結合が有るγリノレン酸に変換され、その後プロスタグランジンE1の前駆物質であるジホモγリノレン酸に変換され、そしてプロスタグランジンE1に変換される。

一方、ジホモγリノレン酸は、4つの2重結合を持つアラキドン酸にも変換され、更にプロスタグランジンE2に変換される。しかし、アラキドン酸は、動物性食品に多く含まれ、通常の食事から摂取できるので、この変換はあまり行われない。

一方、αリノレン酸(オメガ3油)は、酵素の作用により水素を取り除かれ、2重結合を増やすことで、2重結合を5つ持つエイコサペンタエン酸(EPA)に変換され、更にプロスタグランジンE3に変換される。エイコサペンタエン酸は、植物油には、含まれていないが鮭、鯖、鰊などの青身の魚に多く含まれている。

E1とE3は、善玉プロスタグランジンと言われ、上記の様な体に良い作用をする。E2は、悪玉プロスタグランジンと呼ばれ、血小板の粘性を高める作用をする。その結果、血小板をひっつきやすくなり血栓が出来やすくなり動脈硬化や心臓病、脳卒中を引き起こす原因となる。

善玉プロスタグランジンを増やし、悪玉プロスタグランジンを減らすことで各種の病気を改善することが出来る。その為には、その前駆物質であるジホモγリノレン酸とエイコサペンタエン酸を増やし、アラキドン酸を減らすことが必要になる。ジホモγリノレン酸は、自然界に存在しないので食事として取ることが出来ない。しかし、その前駆物質であるγリノレン酸は、ボリジ油、ブラックカラント油、大麻油、月見草油などの植物油に豊富に含まれているので摂取することができる。エイコサペンタエン酸は、魚油に豊富に含まれているので、青みの魚を食べることで補給できるし、αリノレン酸を取ることでも増やすことが出来る。

αリノレン酸は、亜麻仁油、ゴマ油、ブラックカラント油、大麻油に豊富に含まれている。αリノレン酸を摂取することでエイコサペンタエン酸の量が増加するかを亜麻仁油を使って調べた研究がある(1)。この研究では、亜麻仁油を1日当たり13g(約テーブルスプーン1.5杯)を使って食事を作り、他の植物油の使用を制限することでリノール酸(オメガ6油)の摂取を出来るだけ低くした。この研究の結果、リノール酸の摂取を制限して、亜麻仁油を摂取すると、魚油を摂取するのと同じようにエイコサペンタエン酸の量が増加することが判った。亜麻仁油には、αリノレン酸が58%含まれているから、1日7.5gほどのαリノレン酸を摂取したことになる。

リノール酸を制限すると言うことは、市販の食用油の使用を制限したり、揚げ物の食品を食べることを控えることである。市販の食用油には、リノール酸が多く含まれており、リノール酸からジホモγリノレン酸に変換する酵素とαリノレン酸からエイコサペンタエン酸に変換する酵素が同じで、リノール酸の摂取が多いとその酵素がリノール酸の方に働き、αリノレン酸の方に少ししか働かないためである。エイコサペンタエン酸を増やすには、αリノレン酸を取るより魚油を取れば良いと考えられるが、魚油は、植物油に比べて価格が高いのと、においなどの点から調理には向いていない場合がある。エイコサペンタエン酸の最適摂取量は、1日1.8gと言われている。

γ-リノレン酸について

プロスタグランジンE1は、ジホモγリノレン酸から作られるが、ジホモγリノレン酸は、γリノレン酸から作られる。又、γリノレン酸は、リノール酸からデルタ6デサツラーゼと言う酵素により作られる。通常市販されている食用油には、リノール酸が豊富に含まれているから、ほとんどの人は、十分な量のリノール酸を取っている。むしろ取りすぎているぐらいである。だから、十分な量のγリノレン酸が体内にあると考えるのが普通である。

しかし、ここに大きな問題がある。それは、デルタ6デサツラーゼと言う酵素の存在である。この酵素が正常に働かないとγリノレン酸は、出来ない。γリノレン酸とリノール酸を必要としているのは、皮膚細胞だと言われている。皮膚細胞でγリノレン酸が不足すると起こる現象は、皮膚からの水分損失量の増加である。その結果、水分含有量が減少し、乾燥した皮膚になる。アトピー性皮膚炎は、γリノレン酸の不足により発生すると考えられている。γリノレン酸が不足すると当然プロスタグランジンE1の産生量が低下し、アレルギー症状を悪化させ、同時に乾燥肌の皮膚になり、皮膚の炎症を増大させる。これがアトピー性皮膚炎と呼ばれている症状である。

アトピー性皮膚炎の患者は、γリノレン酸の摂取量が少ないか、何らかの原因でデルタ6デサツラーゼの活性が低下していると考えられる。デルタ6デサツラーゼが正常に働くためには、ビタミンB6とマグネシウム、亜鉛が必要になる。これらが不足しているために活性が低下しているなら、これらをサプリメントなどで補えば症状は改善する。

しかし、やっかいなことは、この酵素の活性を阻害する因子が、トランス型の不飽和脂肪酸、飽和脂肪酸、アルコールそして老化である。アトピー性皮膚炎の子供には、偏食が多いと言われるが、例えば、ポテトチップの様なスナック菓子を多く食べると当然トランス型の不飽和脂肪酸を多く取ることになる。それは、ポテトチップの変質を防ぐために水素添加して加工された食用油で揚げられているためトランス型の不飽和脂肪酸が多く含まれている。又、ハンバーガーの様な肉食を好む場合は、当然飽和脂肪酸が体内で多くなる。飲酒もこの酵素の働きを阻害する原因である。

そしてもっともやっかいなのが、老化である。これは、だれも防ぐことが出来ない。年を取ると肌の弾力がなくなり、しわが増える。これは、γリノレン酸の不足が原因の一つである。デルタ6デサツラーゼの活性が低下している人には、γリノレン酸を直接補給する以外に方法が無い。幸いγリノレン酸を豊富に含まれる植物油がある。それは、ボリジ油、ブラックカラント油、月見草油、大麻油(多い順)である。高齢者にブラックカラント油を服用させたらプロスタグランジンE1の量が増加して免疫力が向上したと言う研究発表がある(2)。これは、老化によりγリノレン酸が不足するようになると言う証拠である。

健常人に月見草油でγリノレン酸を長期間服用させたら、アラキドン酸が増えてエイコサペンタエン酸が減少したと言う報告もある(3)ので、γリノレン酸は、特定の人が、補給すべきであると言う考えもある。特にアトピー性皮膚炎の人や皮膚の老化が気になる人、そして糖尿病の人たちである。糖尿病の人は、デルタ6デサツラーゼの働きが悪くプロスタグランジンE1が不足して神経炎を引き起こす。そのような場合、γリノレン酸を補給すると改善が見られる(4)。その場合の服用量は、γリノレン酸として1日240-480mgである。γリノレン酸は、経皮吸収されるので、ボリジ油やブラックカラント油を皮膚に塗布するだけでも乾燥肌が改善する(5,6)。

デルタ6デサツラーゼと言う酵素は、αリノレン酸をドコサペンタエン酸に変換するときにも作用する。デルタ6デサツラーゼの働きが低下するとプロスタグランジンE1もE3も出来なくなることになる。その場合は、γリノレン酸を多く含むボリジ油とドコサペンタエン酸を含む魚油を併用して服用しなければならない。

飽和脂肪酸 オレイン酸 リノール酸 γリノレン酸 αリノレン酸
天ぷら油
カノーラ油
オリーブ油
大豆油
トウモロコシ油
紅花油


16
15
17

54
76
26
24
10

30

50
59
80










非天ぷら油
亜麻仁油
大麻油
月見草油
ブラックカラント油
ボリジ油



10

14

19
11


16

14
55
72
47
35




17
22

58
21

13

必須脂肪酸の摂取割合


WHO(世界保健機構)によるとオメガ6油とオメガ3油を4:1の割合で取るのが良いと報告している(7)。最悪でも10:1以下の割合になってはいけないと報告している。しかし、通常食用油として使われるのは。大豆油、トウモロコシ油、紅花油などで、リノール酸が多く含まれている。水素添加でリノール酸をオレイン酸に変化させてはいるが、それでも市販の食用油を使う限り我々は、リノール酸を十分以上に取っていることになる。

αリノレン酸を含んでいる植物油は、多い物から亜麻仁油、大麻油、ブラックカラント油である。大量にαリノレン酸を補給する場合には、亜麻仁油が適している。オメガ3油とオメガ6油を理想的に取りたい場合は、大麻油が適している。これらを調理に使うことで理想的な摂取割合に近づけることが出来る。

必須脂肪酸不足で起こる病気

必須脂肪酸の不足は、細胞壁の脂肪酸組成が変化して、細胞膜の透過性が低下し、細胞内への物質の出入りが出来なくなり、細胞の機能が低下を引き起こす。細胞機能の低下により、病気が発生するのであるから、すべての病気に関係していると言える。特に関係があるのは、悪玉プロスタグランジンが、関係している高コレステロール血症、高血圧を含む冠状動脈疾患、乾鮮、湿疹を含むアレルギー皮膚炎と炎症、老化から起こるガン、糖尿病などの自己免疫疾患などである。

必須脂肪酸不足が関係している病気を列記したら次のようになる。しかし、これらの病気の人すべてが、必須脂肪酸の不足ではない。

ニキビ、エイズ、アレルギー、アルツハイマー、扁桃腺炎、関節炎、動脈硬化症、自己免疫疾患、運動障害、狭心症、ガン、痴呆症、アトピー性皮膚炎、糖尿病、感染症、湿疹、心臓病、高血圧、魚鱗症、免疫力低下、乳児の栄養障害、炎症、胃腸障害、腎臓障害、ハンセン病、白血病、エリテマトーデス、更年期障害、歯肉炎、硬化症、心臓病、筋肉障害、神経障害、肥満、妊娠中毒、乾癬、ライ症候群、リウマチ、脳卒中、視力障害

ここにあげた病気は、必須脂肪酸の服用で改善したと報告のあった病気で、これ以外の多くの病気が含まれるのかもしれない。しかし、これらの病気がすべて必須脂肪酸を取ることで治るのではない。

参考文献

(1) Mantzioris E, et al., Dietary substitution with alpha-linolenic acidiich vegetable oil increases eicosapentaenoic acid concentrations in tissues. Am J Clin Nutr 59, 1304-1309, 1994.
(2) American Journal of Clinical Nutrition 1999 Oct; 70 (4): 536-43
(3) Janti J, Evening primrose oil in rheumatoid arthritis.. Changes in serum lipids and fatty acids. Annals Rheum Dis 48, 124-127, 1989.
(4) The Gamma-Linolenic Acid Multicenter Trial Group, Treatment of diabetic neuropathy with gamma-linolenic acid. Diabetes Care 16, 8-15, 1993.
(5) Campbell KL. Fatty acid supplementation and skin disease. Adv Clin Derm 1990;20(6):1475-1486.
(6) Frithz A, Tollesson A. Essential fatty acids in preparations for treatment of eczema. Sweden Patent No. 460762. Nov. 20, 1994

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